パートタイマーが行方不明になったら
こんにちは。江東区のたつみ社会保険労務士事務所代表、水本です。
例えば、借金返済の取り立てに追われて、仕事に来なくなったパートタイマーがいたとします。連絡不能です。
通常給料は現金で手渡ししており、その人に対して支払うことができない給料が会社にある状態です。
どうしましょうか。
銀行振り込みだったら振り込んで済むことですが。
もし制服を貸していて、退職時には返却してもらうことになっていたらどうでしょう。
まだ支払っていない給料と相殺してしまいましょうか。
ダメです。相殺はできません。
法律に「賃金支払いの5原則」というのがあって、「全額払い」の原則があるからです。
働いた分は一旦は必ず全額を労働者に支払わないといけないということです。
例外的に天引きしてもいいのは、税金とか社会保険料とか法律で定められているものと労働組合などと約束して決めたものだけです。
もしその人にお金を貸した人の代理人として弁護士がやってきて、契約書や公正証書などを示して、その未払い給料を借金返済に充てますから出してくださいと言われたら、渡しますか。
これもダメです。渡してはいけません。
「直接払い」の原則があるからです。
賃金は労働者に直接渡さないといけないという原則です。
今は現実的に、本人名義の口座に振り込む約束を本人とすれば直接払いと認めるということになっているのですが、代理人や仕事の仲介人に渡すのは禁じられています。
そうすると、通常は現金で給料を支払っているという会社の場合は困りますね。
退職金制度があるところだと、就業規則に、貸与物の返却がない場合には退職金を減額するといった規定を入れておくのは対策になると思いますが、パートタイマーに退職金制度を設けているところは少ないのではないかと思います。
入社するときに身元保証人を立ててもらっているところであれば、身元保証人に請求することは可能でしょう。
でも、これも、パートタイマーを採用するときに身元保証人を立てさせているところはあまり多くないのではないでしょうか。
しょうがないからその給料は会社で預かっておきましょうか。
受け取りに来ればいつでも渡せる状態ということなら、その給料を受け取る権利は2年間あります。
2年経って取りに来なければ、時効によってその権利は消滅します。
そうしたら、まあ解決でしょうか。
ところで、その行方不明者については退職手続きも問題になります。
これは、就業規則に「行方不明で〇日連絡が取れない場合には自然退職とする」といった規定を入れておくことが対策になります。
退職のルールがなく、長い放置状態の末に、もし突然現れて戻りたいと言い出された場合、改めてよく調べると確かに在籍しているということになったら、復帰は認めざるを得ません。
就業規則には、まさかの時に社長を助けてくれる側面があることを知っておいていただきたいと思います。