労働事件 解雇裁判フルコースのお値段
こんにちは。江東区のたつみ社会保険労務士事務所代表、水本です。
解雇→仮処分→敗訴のフルコースでどのくらいお金がかかるでしょうか。
例えば、会社を解雇された労働者のAさんは、その解雇は無効であって自分の社員としての地位はいまだに存在し、賃金を受け取る権利があるはずだと主張して、解雇されてすぐに、裁判所に賃金仮払いの仮処分を申し立てたとします。
仮処分の決定が下りるのは申し立てから3~6か月後です。
決定が下りたら、会社はその日からAさんに給料を支払わなければなりません。
Aさんはこれで生活が確保されますから、じっくりと本裁判、つまり、解雇無効、社員としての地位確認の訴えに取り組むことができます。
仮に、その本裁判を仮処分の2か月後に提起したとしましょう。
審理が進み、判決が下るのは1年後でしょうか。
そうすると、それまでに支払われる給料は1年2か月分です。
Aさんの給料が月30万円とすると、30万円×14か月=420万円です。
そうして、裁判は会社の負け、つまり、解雇無効という結果が出たとします。
裁判所は、Aさんの労働者としての地位が解雇日以降もずっと存在していることを認め、解雇日以降の給料の支払いを会社に命じます。
賃金仮払いの仮処分決定が申し立て後6か月だったとすると、その後の本裁判まで2か月、判決まで1年と合計して、会社は全部で1年8か月分の給料をAさんに支払うことになります。
30万円×20か月=600万円です。
気をつけなければならないのは、賃金仮払いの仮処分で支払った420万円はこれで帳消しにはならないということです。つまり、裁判確定までの賃金仮払いはあくまでも「仮の」処分であって、それとは別に、裁判の判決で命じられる「確定の」処分があるということです。会社にしてみれば二重払いです。
会社がAさんを解雇してから解雇無効の判決が出るまで、1年8か月間働いていないAさんに支払う賃金を合計すると、420万円+600万円=1,020万円です。
裁判制度には、会社が地方裁判所の判決を不服として高等裁判所に控訴、さらには最高裁判所に上告することができるしくみがありますが、会社としてはこれ以上の手続きを踏もうとはしないでしょう。
判決が確定するまでは賃金仮払いが続くわけですし、仮に上級審で判断が覆って解雇が有効だとなっても、それで会社に大金が入ってそれまでにかかったお金や労力が取り戻せるわけではありません。
さて、会社の負けが決まったら、Aさんの解雇はなかったことになりますから、Aさんは職場に戻ってきます。
会社はAさんを歓迎するでしょうか。
もしかしたら、自主的に辞めていただけませんかと頭を下げて、退職金を特別に上積みしたりして去っていただくようにするでしょうか。
そうすると、Aさんと縁を切るためには、裁判にかかる弁護士費用も入れて総額1,500万円くらいはかかりそうです。
もしこれが整理解雇で、Aさんと同じ立場の人が5人とか10人いたら、会社はどうなるでしょう。
解雇は、会社から労働者を排除するための最終手段であって、もし、やむを得ずやるなら法的な根拠と万全の手続きをもって行わなければならず、そうではない安易な解雇は絶対にやってはいけないと思います。